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認知症ケア

認知症の人から見える世界

「認知症の人って変わってる」、「独特で変わった人が多い」

そんな印象を持っている方は多いと思います。

実際臨床の場面でも認知症の人は、私達からしたら当たり前のことを拒否したり、会話の中で話の辻褄が合わないことが多々あります。

しかし、それは私達からみた一方的な側面でしかありません。認知症の人には認知症の人が見る世界があるのです。

今回はそんなお話を述べたいと思います。

認知症の人の人生を知る

認知症の人を知るにはその人の過去を知る必要があります。

認知症ケアの基本は、リハビリなどの医療的な根拠=Evidence based medicineとは異なり、物語に基づいた医療=Narrative-based Medicine が基本となってきます。

認知症の人1人1人に物語があり、今のその人を創っている。その為には、これまでどのような人生を送ってきたか知る必要があります。

誰にでも歩んできた物語がある。

現在、認知症の検査やスクリーニングには様々な種類が存在します。しかし、認知症の程度を数値化できるだけで、その人の内面までは測ることは出来ません。本人に話が聞けない場合は家族・親類の方に話を聞いてみると良いかもしれません。

かつては農業をしていた、車の整備工場で働いていた、県会議員をしていた・・・。

10人いれば10個の人生があります。

認知症の症状に対するアセスメントをする前に、その人の”物語”を知る必要があります。

認知症ケアの基本はその人の”人となり”を知ることが大切です。その人の”人となり”を知ることで次のステップに進むことが出来ます。

関わり方に答えはない

認知症の人との関わり方には正解がありません。

他の疾患と同様に1人1人症状・病態が異なります。認知症の症状も異なりますし、認知症の”人となり”も異なるため、1人1人異なったアプローチが必要となるわけです。

あなたは、自分の周りの人と関わるとき皆同じように関わりますか?

答えはノーだと思います。

また認知症の人の世界の中では、ケアを行う”あなた”も他人になります。

あなたが全く知らない他人から、妙に馴れ馴れしくされたり、上から目線で物を言われたりするとします。どのように感じますか?

あなたが認知症の人に普段行っているケアを、自分自身に置き換えてみましょう。

何も難しいことはありません。認知症の人もまた人間なのです。

認知症の人との関わり方に答えはないですが、自分自身に置き換えると色々見えてきますね。

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私が認知症の人の世界を実感した瞬間

ここで1つのケースを紹介します。

私はある男性を担当していました。仮にAさんとします。Aさんは、90歳代の男性で誤嚥性肺炎で入院されていました。元々独歩可能レベルでしたが、臥床の影響で廃用が進行し、寝たきり状態となっていました。幸い肺炎は改善し、退院後は施設に入居する予定でした。認知機能の低下がみられ、HDS-Rは1桁、意識レベルにもムラがあり入院中はBPSDが出現している状態でした。

家族は熱心で毎日の様にお見舞いに来ていました。

リハビリの進行状態ですが、介入当初は拒否も少なく歩行練習など離床を促せていましたが、夜間のBPSDの悪化と同時に昼夜逆転傾向が強まり徐々に拒否が強くなっていました。

ある時、私はAさんの居室でリハビリのお誘いに行きました。その時は誰もおらず、Aさんの受け入れも良好で、ベッド上での関節可動域運動、ベッド上での端坐位・ベッド周りでの歩行練習まで実施可能でした。

ベッドから歩いて戻って来たときに、ちょうど家族のお見舞いがありました。家族はAさんが歩いているのをみて大変喜んでいました。

Aさんのリハビリが終了し、ベッド上で端坐位を取った時にその出来事は起きました。

ベッド上に座ったので臥床を促そうとその方に声を掛けました。

「Aさん、ベッドに横になりましょうか?」

しかし、Aさんは座ろうとしません。

ここまでは日頃よくある話なので、私も無理に急かしたりはしません。しかし、家族の方が「おじいちゃん、横になろうか。」と催促します。

「いや、もうしばらく座っとく!」やや興奮気味に話されます。

私の場合この場面では無理に横にしようとせず、しばらくお話を傾聴し再度お声掛けをするのですが、その時検温の為看護師さんが入ってきました。

そのやり取りを見ていた看護師さんも穏やかに「Aさん、少し横になりましょうかね。」と声かけをします。

しかし、再度臥床を拒否し、Aさんの表情がだんだん険しくなります。

私はこの時点で気づきました。

私たちはスタッフ含めAさんのベッドの周りを囲むように立っていました。

この状況をAさんの立場から見てみましょう。

ーー見知った顔とあまり良くわからない人が自分を囲ってベッドに横になるように言っている。

なんでこんなにベッドに横にしたがるんだろう?別に横になりたくないのに。

・・・もう1人入ってきた。

この人も同じこと言ってる。どうしてこんなに皆に寄って集って囲まれて寝るように言われなくちゃいけないんだ。ーー

私たちは知らず知らずの内にAさんを囲んだ状態となり、口々に横になるよう促していたのです。

これではまるで弾劾裁判です。

その部屋には誰1人悪意のある人間はいません。

しかし、少なくともAさんはこの状況を不快に感じ、不安を感じたはずです。

不安を感じた結果Aさんは精神的に興奮してしまい、臥床を拒否したのだと思います。

私はAさんに「また来ますのでよろしくお願いします。」と声掛けをし、部屋を退室しました。

私がいない方がAさんの精神的なストレスを減らすことが出来ると考えたからです。

結果、Aさんは落ち着きを取り戻し、ベッドへ臥床されました。

その人の物語に参加しよう

このようなケースは日常茶飯事だと思います。

認知症ケアをするにあたって、その人の認知症の症状や特徴に目が行きがちですが、実はその症状が出現するまでに、その人の中で物語(ストーリー)があります。

それが先に述べた、認知症のケアの基礎は物語に基づいた医療=Narrative-based Medicine に基づくということなのです。

今自分が置かれている環境や他の人との距離感など、認知症の人が不快に感じることは多数存在します。その不快感を取り除くことが、認知症ケアの基本です。

認知症の人のケアを行う際は、症状などを診る前に、まずは、どうしてBPSDが出現したのか考えてみましょう。

その為にはその人の”人となり”を理解する必要があります。認知症ケアの正解は1つではないのです。

そして、認知症の人の”物語”に入り込み、あなた自身もその人の”物語”に参加するのです。

終わりに

今回は1つのケースを通して認知症の方の世界を見てみました。

認知症の人=変わっているという印象を受けますが、決して初めからその状態ではなく、その人もその人の物語の中で生きています。

ですから認知症ケアを行う前に、まずはその人の”人となり”を知ることから始めましょう。

きっとその人の診かたが変わってくると思います。